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月夜にこんがらがって

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老人がくれたもの(前編)

トン、トン、と不意に助手席側の窓を叩かれたので、一件目の撮影が終って次の取材先に向かうため車を道に寄せひとり地図を見入っていた僕は驚いてしまった。
やや後ろ目に左に振向くと、そこには八十歳前後とおぼしき老人が車内を覗き込む様に立っていた。その目はじっと僕を見つめていた。
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人通りも殆どなく声をかけられる理由が全く見当たらなかった僕は怪訝な調子で、なんですか?と、パワーウィンドウが下りきったところで訪ねた。老人は少し聞き取りづらい老いた喋り方だった。a0181097_1705017.jpg












最初事態がよく飲み込めなかったが話を聞いているうちに、どうやら検診に行かねばならない病院への道中で道に迷ったらしい事が判ってきた。
その最寄りの駅から数分で到着するものを勘違いをして延々反対方向に歩いてきて迷い込んだようだ。a0181097_17233249.jpg























この急な坂道の多いところからその病院のある街までは若者であればさほど遠くはなかったが、この老人の様子では恐らく相当な体力を浪費して時間もかかる事は容易に想像できた。また、いつ道に迷い込むとも限らない。

道を尋ねられただけだったが正直、参ったな。と、思った。
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その日二件目の撮影場所へまさに向かおうと思っていたタイミングだったし、老人の話を聞いているうちにも一刻一刻入り時間が迫ってくる。躊躇しながら時計に目を向けつつも心の中で呟いていた。
俺が送って行くしかないじゃないか・・・。

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何処かで少しでも迷ったり渋滞にでも遭遇したら完全アウトだと思った。そうでなくても道にうとい僕の事、とっさに適切な道順を選択出来るかどうかもとても怪しかったがとりあえず老人を助手席に乗せてそこで診察券を見せてもらった。
そこに記された住所を確認し、もともと僕が下ってきた長い坂道を切り返して逆戻りに車を急発進させた。

車中で少し話しをしたがやがてスタートとなる撮影時間や取材先の事が気になっておそらく僕は上の空だったろう。
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話をする老人の横顔にあまり表情はなかった。
                     〈つづく〉
                    
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by meke1008 | 2011-01-28 20:39

十年

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十年一昔、と言うけれど早いもので僕もこの仕事を始めて、まる十年が経ってしまった。

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これだけ目まぐるしい時代になると「三年一昔」くらいに表現した方がいいのではないかとも思うが、とりあえず一区切りつけて新たな十年が始まる事になった。
月日ばかり経ってしまっていっこうに中身が向上する気配なし、というのが悲しいところだがそこはもう暫く様子見という事にしておこう。
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十年先の自分の姿を見据えて仕事をしろ。
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と、時々言われてきた筈だがその言葉が届いていたのはどうやら耳までで、頭の中まではその音声信号は変換されなかったようだ。
パラレルワールド(現実とは別のもうひとつの平行して存在する世界)をあまり信じていないが、あるのだったらぜひ覗いてみたいと思う。そこで自分はどんな十年を送ってきたのか。a0181097_1951942.jpg





















なんとも体たらくであるから、多くの人に支えられているこちらの世界の方がまだマシにやれているのかもしれない。そもそもまっとうに存在しているのかすらよく分からないけれど。

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年が明けてさざ波のように穏やかな街とは裏腹に、毎年毎年相も変わらず気忙しい新年を迎えている訳だが、次の十年後どんなふうな年が明けているのか。
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その頃には、いいかげん僕もいい歳だ。
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by meke1008 | 2011-01-07 22:25