人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

月夜にこんがらがって

meke1008.exblog.jp

いざさらば

年一回、年明け、一月、最終土日、と言えば僕ら大学時代の友人たちの間では「男だらけの温泉旅行」と決まっている。女房子供は質に入れ、男らしくいかなる仕事も蹴り倒し公私共々、皆様になんとか平謝りをしてスケジュール調整して頂き、後ろ髪ひかれる思いで参加の決意を固める事になる。
いざさらば_a0181097_15572060.jpg
フルメンバーとなると最大十三、四名。これは当然、その昔某在京放送局で制作されていた「女だらけの水泳大会」をもじったもので僕らの学部の殆どが男であった為、同志達との新年会となると必然的にこのようなとても悲しい楽しい旅行が企画される。早いものでもう十一回目となった。いざさらば_a0181097_1623752.jpg











「男だらけ」であるので恥も外聞もナシ。朝から酒に溺れ、家族連れやカップルが多く訪れる観光施設に出向いてはおっさん一行奇異の目で見られ、大した目的もないまま無駄に歩き廻り、宿泊施設に屋外プールなどあろうものなら罰ゲームと称して氷のように冷たい真冬の水の中を泳がされ、騙されて閉め出される事もしばしば。いざさらば_a0181097_16144428.jpg










◯◯◯を◯◯◯◯◯にされたうえに◯に×××されたりして、とても四十間際の方々とは思えな、、、いや、最近は皆、年輪も重ね個々にそれぞれの人生に背負った想いなど噛み締めつつ訪れた神社でさい銭を投入れてみたり、おのおのニクラシイ嫁の悪口かわいい子供たちの成長報告をしあったりとても有意義な二日間となる。
いざさらば_a0181097_169125.jpg





















そんな事であるから「男」たちは風呂も入って夜ともなるとへろへろで宴会場はお通夜のような静けさとなる。「男だらけ」であるから宴会にコンパニオンなどは呼ばず、隣の宴会場(こちらはキレイなコンパニオン付き)から聞こえるどこぞの慰安旅行集団のおじさんの「赤ら顔」声のカラオケを襖ごしに聴きながら静まり返った宴会場で「ふふっ」などと鼻で苦笑しつつ「ったく、、下品なおやじめ・・」「今年もいい旅行だよなぁ!」「そうだなぁ!」なんて言いながら遠い目でビールを継ぎ合ったりする訳である。いざさらば_a0181097_1619677.jpg















日本全国を飛び回り、大陸をまたにかけ、日夜この停滞ムードを頼もしい限りに躍動するお父さんもいれば、日々の生活にやつれ果てこのまま家には戻らないのではないかと思われるお父さんや、はたまたこの旅行が終わってしまうと後は何も人生の目的が無くなってしまって残りの日々は海や山に己の尊厳を見いだしてしまう困った人がいたりしてなかなか興味深い。

そんな中に一人、今回の幹事役を最後にこの旅行は暫くはお休み、という男がいて今まで十年無欠席、この春先から日本を離れる男がいる。
いざさらば_a0181097_1624149.jpg
そんな男を幹事にしてしまって僕たちは楽しんでしまう所がいかにもこの旅行らしいのだが、なんでも彼はアジアのある国へ赴任する事が決まったのだと言う。
その話を初めて聞いたのは去年の夏の終わり、都内にある百貨店の屋上ビアガーデンに集まった時だった。いざさらば_a0181097_16474684.jpg















彼には以前にも海外赴任の話があったのだが今回、その国の首都にある何もない田舎の野原の中に彼の会社の工場を一から造りそこの工場長として役目を担う事になったのだった。
当然僕には彼の会社の事はよく判らないが、小柄のかわいい奥さんと二人、五年は戻ってこないらしい。
こういう時の彼は割と無表情でそれが彼にとって嬉しい事なのか億劫な事なのか、出会った時からあまり変わらない淡々とした喋り方で打ち明けた。
いざさらば_a0181097_16582292.jpg

現地で従業員を集め育成をはかるという事なので、彼にとってはまさに全てを一から造り上げてゆく重大な任務を仰せつかったのだった。
妻を持ちながら日本を離れ五年もの間責任ある大役を引き受ける決心をする為にどれだけ時間を要したのか、とても興味があって単刀直入に聞いた。

断れば誰かが行く事になる。そいつが5年経って戻って来た時に俺はそいつに一生頭が上がらない。それを考えたからその日の夜には決めていた。
いざさらば_a0181097_1712135.jpg

彼の奥さんのお腹には新しい小さな命の息吹が宿っている。
彼が日本を離れるこの同じ春先にきっと元気な産声をあげるだろう。
遠い異国でもう一つ大切な事を彼は始める。
by meke1008 | 2011-03-04 18:36
<< 春とは 老人がくれたもの(後編) >>